第五章 新たなる獲物 1 社長室の豪華なソファーに座りながら、加藤はひとり高級葉巻をふかしていた。 忠実なしもべとなった西脇真澄から、門田の妻と肉体関係を持てたと報告が入ったのが十日前。 それから毎日、真澄は門田弥生と密会を続け、今では立派なレスボスの関係になっていた。 先日、真澄が現場を隠し撮りしたビデオを持ってきた。それには清楚な人妻とは思えないほど、激しく乱れている姿が映されていた。 そして今日、ホテルの一室で加藤は弥生を抱けることになっているのだ。 真澄と約束した時間にはまだ少し余裕がある。 そこで加藤は久しぶりに、工場内へと出向いてやることにした。 「こ、これは社長。よくおいでくださいました」 工場に入るなり、男性社員のひとりが加藤の側へと駆け寄ってきた。機嫌を窺うように卑屈な笑みを浮かべている。 名前も覚えてないが、確かこの工場で長を任せていた男のはずだ。 適当に相槌を打ってから、目的の人物に視線を向ける。 ほとんどの人間が絶対権力者へ尻尾を振ってるというのに、相変わらず門田だけは加藤に興味がないと言わんばかりに黙々と自分の仕事をしている。 いつもなら少なからずムッとしていたところだが、加藤はニコニコと笑顔で門田に近づき、ポンと手のひらを相手の肩に乗せた。 突然の出来事と未だかつてないほど上機嫌な加藤に、さすがの門田も戸惑いを見せている。 「我が社のために頑張ってくれてるようだね。これからもこの調子で頼むよ」 「は、はい……」 とりあえず門田はそう言葉を返すしかなかった。 相手はあくまでも雇い主であり、門田は従業員なのだ。 しかしここ十日間で、加藤に対する認識は若干変わりつつあった。 社内の風紀はきちんと保たれているし、社長の加藤も人が変わったみたいに真面目になっていたのである。 「君の力あっての我が社とはいえ、働きづめでは体もしんどいだろう。今度皆で精がつくものでも食べにいこうじゃないか」 「は、はいッ!」 解雇を覚悟しても、自分が進言したのは無駄ではなかったのだ。 そう思うと、門田は嬉しくてたまらなくなった。根が真面目で熱血な男だけに、こういうのを意気に感じてしまうのである。 だからこそ門田は気づけなかったのだ。心の中で加藤が邪悪な笑みを浮かべていることに。 自分の妻が、どんな状態になっているかも知らずに憐れなものだな。 約束の時刻。西脇真澄に指定されたホテル内を、愉快な気分で加藤は歩いていた。 これからあの生意気な門田の美人妻を犯せるかと思うと、今から気分が高揚してしまう。 二人の美女が待っているであろう部屋の前に立ち、軽くドアをノックする。 すぐに返事があり、扉がゆっくりと開かれた。 中から現れたのは西脇真澄である。 すでに上半身は裸になっていて、下半身はタイトなジーンズに包まれている。 「お待ちしておりましたわ、ご主人様。どうぞ、こちらへ」 案内するために、真澄は加藤に背を向けて室内に戻っていく。 目の前でフェロモンたっぷりのジーンズヒップを、クネクネさせながら歩く真澄。後姿を見てるだけで、珍棒があっさり勃起してしまった。 お楽しみはこれからだ。少しは落ち着け。 愚息を叱りつけてから加藤はドアを閉め、鍵をかけて真澄の後を追い始める。 「あアン、どうしたの真澄さん。早くいつものように可愛がってぇ」 「ほう……これは、これは」 なんとも甘ったるい声が聞こえてきて、加藤が部屋の中央にあるベッドを見ると、そこにはアイマスクとヘッドホンをつけている全裸の美女が仰向けになっていた。 両手を腰のあたりで縛られており、だらしなく股が開かれている。 髪型や体型から目当ての女性である門田弥生だと分かったが、とても同一人物とは思えなかった。 媚声とともに口からは涎がとめどなく流れ、股間からもはしたない液体がだだ漏れになっている。 以前見かけた頃の、人妻らしいおしとやかさというものは微塵も見受けられない。 ビデオで報告を貰っていたとはいえ、こうして実際にその姿を目にすると加藤もさすがに驚きを隠せなかった。 「弥生には徹底的に肉欲だけを覚えさせています。どんなに真面目ぶっていても、オマ×コひと撫ですれば欲情する淫乱女になってますわ」 「そうか、ご苦労だったな」 胸を張って告げてきた西脇真澄の労をねぎらうと、加藤はもう一度門田弥生の美しい肢体を眺めた。 「ねぇ、お願い。もう我慢できないのぉ」 「……言葉遣いはまだまだのようだな」 舌足らずな口調でおねだりを繰り返す美人妻を、見下ろしている加藤が呟く。 だがそれも無理のない話だった。十日という短期間で、ここまで仕上げただけでも大したものである。 叱られると思っているのか、緊張している真澄に「気にするな」と声をかけてやると、彼女はホッとしたような笑みを浮かべた。 「調教する余地が残ってればこそ、ワシも楽しめるというものだ。ところで――」 「ご主人様がいらっしゃることをこの女は知りません。いつもどおり私に愛してもらえると思いこんでいますわ」 優秀な側近ぶりを発揮して、質問前に真澄が加藤の聞きたかった答えを口にしてきた。 両耳を塞いでいるヘッドホンに、大音量で音楽でもかかってるのだろう。喘いでいる弥生は、加藤と真澄の会話にまったく気づいていない。 だからこそ楽しいのだがな――。 口の端を吊り上げながら、加藤は無防備な裸身にゆっくりと近づいていく。 「ああ……」 人の気配を察知した弥生は、西脇真澄の手によって至福のひと時がもたらされると確信していた。 視覚と聴覚が十分に働いてない自分の隙をついて、別人が目の前にいる可能性なんて欠片も想定してなかった。 相手がいじりやすいように極限まで足を開き、腰を少し浮かせてから前へ突き出す。 すでにグッショリと濡れそぼっている秘所から、恥ずかしい液体が溢れて太腿まで濡れ伝わってくる。 「まるで発情した牝猫だな」 加藤が黙ってみているだけで、シーツの染みがどんどん大きくなっていく。 呼吸を荒げ、乳首を勃起させては裸身をくねる。 ようやくこの時がきた。憎き門田の愛する嫁を手篭めにできるのだ。 高揚する気分を抑えきれず、年甲斐もなく手のひらを汗でベトつかせてしまう。初めて西脇真澄をモノにした以来の緊張感だった。 「それでは、早速楽しませてもらうとするかな」 ズボンに手のひらを擦りつけて汗を拭いてから、忙しなく上下している乳房に触れる。 大きさや形もさるものながら、なにより特筆すべきは指に吸い付いてくるようなフィット感である。 とても三十代の人妻とは思えないほど瑞々しい美乳。加藤の隣に立っている真澄のと比べても、遜色ないレベルだった。 「ンフン、うン……」 待ちかねていた愛撫に、弥生からは満足げな吐息が聞こえてくる。 加藤が指先に力をこめると、美人妻の上半身が震え、なんの拘束も受けてないもう片方の乳房がブルンと揺れた。 「ご主人様にちょっとおっぱいを揉まれたくらいで、もう気分をだしてますわこの牝豚」 「きっと今頃は、愛しの真澄お姉様のことでも考えてるんじゃないか」 「そうですわね」 からかい半分で言った台詞だったのだが、西脇真澄はわりと真面目な顔で加藤に同意してきた。 「日が経つにつれて、私に甘えてくるようになってましたからね。少なからず特別な好意を抱いてるのは確かでしょう」 「なるほど。で、お前にも情が移ったのか?」 弥生との情事を思い出すかのように瞼を閉じていた真澄が、加藤の言葉を聞いて再び目を開いた。 瞳は妖しい輝きに満ちており、まさに情婦に相応しい。 「私が弥生に情を持っているとしたら、それは欲情だけ。いずれ訪れる絶望の瞬間に、彼女がどんな顔を見せてくれるか想像するだけで……あアン」 サディストとマゾヒストの心をその身に備えている真澄らしく、顔も仕草も口調も危ういものになっていた。 |