第二章 幕開けの復讐劇 2 真昼の会社内。いくら昼休み時間とはいえ、会議室で女性社員が二人並んで下着姿になっている光景は異様だった。 しかもその女性たちを辱めているのは同性の西脇真澄なのである。 とは言っても裏切りという行為で、可愛がっていた女子社員の増田ゆい子と中島春香から、最初に屈辱というものを味わわされたのは真澄のほうだった。 だいぶ溜飲は下がってきたが、それでもまだまだ復讐を止めるつもりはなかった。 嫌いだったセクハラ社長の愛人になることを自ら志願したのも、すべては今、この瞬間のためだったのだから。 ショーツは二人ともブラとお揃いのものをつけていた。 「まったく。男を意識したようなショーツをはいちゃって。貴女たち二人はひょっとしてヤリマンなのかしら」 「ち、違いますゥ」 思わず春香が声を荒げてしまった途端、ただでさえ怖かった真澄の目つきがより鋭くなった。 「よく聞こえなかったわ。もう一度聞くわよ。貴方たち二人はひょっとしてヤリマンなのかしら?」 先ほどよりもずっと強い口調で真澄が尋ねる。それは二人が否定することを許さないという脅しのようなものだった。 会社を追い出されるよりはマシだと判断したのか、数瞬の沈黙後、目に涙を浮かべた春香が最初に口を開いた。 「私はぁ……ヤリマンですぅ……」 親友の発言を受けて、ゆい子も「私もです……」と答えたが、真澄は彼女に対してだけ、駄目だとばかりに首を左右に振った。 「男漁りが趣味の、が抜けてるわよ」 「うう、ひ、酷い」 もっと残酷なことを私にしておいてよく言うわ。 しくしくと悲しそうに嗚咽を漏らしているゆい子に、真澄は吐き気を覚えていた。 「私は……男…漁りが、しゅ、趣味の……ううっ、ヤ、ヤリマン女です」 途中何度も言葉に詰まりながら、ようやく要求された台詞をゆい子がすべて口にした。 「そう、知らなかったわ。二人はヤリマンだったのね」 愉快でたまらない真澄は二人を散々小ばかにしたあと、今度は下着を上下ともに脱ぐよう命令した。 「ヤリマン女に下着なんて上品なものは不似合いでしょう」 ヤリマン宣言までさせられたことで半ばヤケクソになってしまったのか、ゆい子と春香はほとんど躊躇うことなくブラジャーのホックを外し始める。 すぐにブラジャーが定位置からなくなり、二人それぞれの乳首が露になった。 小ぶりでおわん型の春香の乳首は平型。ふくよかで下向き型のゆい子は突出型の乳頭だった。 形状が違う乳房を真澄が見つめるなか、ゆい子と春香がほぼ同時にショーツを下ろそうと両端に指をかける。 しかし最後の一枚はさすがに抵抗があるのか、なかなか指がそれ以上先には動いていかない。 最初は硬直している二人を楽しそうに見ていた真澄だったが、最終的には業を煮やし、自分のスカートのポケットから封筒を二つ取り出した。 「ウチの会社には所定の用紙なんてないから、無地の白い便箋に退職願を記入後、この封筒に入れて私まで提出してもらえるかしら」 具体的な行動方法を示され、追いつめられてしまったゆい子と春香はもはやどうすることもできなく、顔を悲しみに染めて一気にショーツを下ろした。 靴下と靴も脱いで、これで完全なスッポンポンである。 「会社で全裸になるなんてとんだ変態ね。私にはとても真似できないわ」 自分でさせておきながら、真澄はどこまでも二人を嬲っていく。 マゾだけでなくサディストの素質もあったのか、恨みをはらすための行為が今ではとても楽しく感じられていた。 「男を知らない田舎娘のような顔をしているくせに、なかなか大胆なことをしてるじゃない。まさかその歳で生えてないということはないわよね」 そう言って真澄が指先で触れたのは、ゆい子のデルタゾーンだった。 結構な土手高で下つきなのだが、それより問題なのはこのおさげの女子社員に陰毛が生えていないことである。 微かに剃り痕が見えることから、生えていたのを恐らく自分で剃ったのだろう。 「これは彼氏の趣味だったりするのかしら。もちろん正直に言わないと、どうなるかわかるわよね」 コクリと頷いたゆい子の頬で、羞恥の色が濃くなってきた。 「彼氏はいません。こ、こうすることが……き、気持ちいいからです」 蚊の鳴くような声での告白を聞いたあと、一瞬キョトンとした真澄だったが、言葉の意味を理解していくにつれ顔に笑みを浮かべていった。 「アハハ。どんな理由かと思ったら、自分の性癖だったなんてね。とんだ変態女だわ」 大爆笑され、ますます赤くなってしまった顔を俯かせてしまうゆい子。少し泣いているのか、肩が小刻みに震えていた。 「それにしても陰毛まで、でこぼこコンビじゃない」 真澄が次に視線を向けたのは、もうひとりの女性社員。中島春香の局部だった。 同僚で親友である増田ゆい子とは対照的に、そこは密林のジャングルとなっている。一般女性と比較しても、濃い部類に入るほどだった。 「顔が少しくらいよくても、これじゃ百年の恋もさめてしまうわよ。女なんだから手入れくらいしなさい。それとも貴女は陰毛をボウボウに生やしていたほうが感じるタイプなのかしら」 「そ、そういうわけじゃないですけどぉ……」 「あら、そうなの。それなら私が春香のお毛けの手入れをしてあげるわ」 突然の申し出に驚く春香だったが、拒否することはできなく、複雑な表情で「お願いしますぅ……」と口にする。 「素直なのはいいことね。じゃあ、早速更衣室にある私のロッカーからバッグを持ってきてもらおうかしら。その中にクリームとシェーバーが入っているのよ」 会議室を出て、少し離れた位置にある更衣室へ行くために、まずは服を着ようとゆい子と春香が床にある脱いだばかりの下着に手を伸ばした。 しかしそれより早く真澄が蹴り飛ばし、衣服は二人の前から去っていってしまう。 「ヤリマンには服も下着もいらないわ。私もついていくから早くなさい」 二人の心の準備も待たず、歩き出した真澄はいきなり会議室のドアを開いた。これにより廊下から室内の様子が丸わかりになる。 「ちょうど今は近くに誰もいないみたいよ。裸を見られたくないのなら、さっさと目的を果たしたほうがいいんじゃない? あ、それはないか。だって貴女たちは見られて喜ぶヤリマンですものね」 状況に絶望して泣こうが喚こうが、真澄は相手を許すつもりは毛頭なかった。 クスクスと悪魔のような笑みを見せている態度からそれを感じとったのか、ゆい子と春香はオズオズと足を動かし、会議室を出たところで目的地へ向かって一気に駆け出した。そうすることで見られるリスクは多少なりとも軽減すると判断したのだろう。 真澄も後ろを追いかけ、誰にも遭遇しないうちに、ほどなく更衣室へと辿り着いていた。 三人全員が入室したところですぐに入口を閉め、緊張と全力疾走の疲れから肩で息をするゆい子と春香。 「日中の社内を全裸でダッシュした気分はどうかしら」 「も、もう許してください」 二人声を合わせるようにして真澄に懇願してくる。涙を流している哀れで惨めなその顔は、心無い仕打ちで痛めつけられていた心を十分に癒してくれた。 「そうね。私も鬼ではないわ」 口にした一言に、二人の女性社員が安堵の表情を浮かべる。 「会議室までの帰りは走るのを禁止して、ゆっくり歩いて戻ることにしましょう」 「え……」 続いて発せられた予想とはまったく違う台詞に、一転して二人の顔が今度は曇ってしまった。 「スケベな体を他の人に見てもらえなかったのが悲しいんでしょう? 私も鬼ではないから、貴女たちの願いを叶えてあげるわ」 「そ、そんなぁ。ち、違……」 そこまで言ったところで真澄にキッと睨みつけられ、春香はそれ以降の言葉を失ってしまう。 「さあ、行きましょうか」 自分のロッカーからバッグを取り出した真澄は、二人にそう声をかけてから更衣室のドアをオープンした。 仕方なしに歩を進めるゆい子と春香。その顔はここへ来るまでと同じように、誰とも会わないことを祈っているようだった。 しかし昼休みが中盤にさしかかっていたこともあり、廊下には社外での昼食から戻ってきていた社員の姿がちらほらと存在していた。 社内を全裸の女性が二人並んで歩いているのだから、当然の如く全員から注目される。 手で胸や局部を隠すことを禁じたうえで、真澄は更衣室での宣言どおり、視線の雨の中をゆい子と春香にゆっくりと歩かせたのだった。 |