第三章 完全なる調教

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 売り上げ好調により、新設した豪華な社長室で、加藤育郎はひとり思案していた。
 これまた高級ソファにどっかりと腰を下ろし、贅沢の限りを極めているのだが、その表情はどうにも浮かない。
 原因はただひとつ。西脇真澄のことである。
 美貌の女性社員に権力を与えてやってから早一週間。女帝と化した真澄はまさにやりたい放題だった。
 ほとんどの女性社員を、新たにできた性欲処理課へ追いやり、思うがままに弄んでいるのだ。
 社内の社員は、男性も女性も加藤より真澄におべっかを使うようになり、今や社長よりも存在感は増していた。
 それだけならばまだよかったが、問題なのは真澄の加藤に対する態度に変化が現れてきたことである。
 表面上は心酔している愛人を装ってはいるが、最近では高圧的な言動もちらほらと目立つようになり、なにより加藤との性交も拒否するようになってきていた。
 もともと人望があった西脇真澄だけに、業務の中核を担っている社員たちの人身もしっかりと掌握しており、影響力までも加藤を凌がんばかりの勢いだった。
 もしかしたら最初からこれが真澄の狙いだったのかもしれない。
 初めて肉体関係を結んでいた時に感じていたのは偽りなき事実。快楽に流されかけながらも、頭の中では冷静にここまでの計画を練っていたのだとしたら、たいした女狐ぶりである。
 だが、加藤としても当然、このまま指を咥えて見ているわけにもいかなかった。頭のいい真澄のこと、下手をすれば会社自体を乗っ取られてしまう可能性も否定できない。
 ならば加藤のとるべき方法はひとつしかなかった。
「フン。ワシを出し抜こうなんぞ、百年早いわ」
 企みを頭の中で組み立てつつ、加藤は早朝の社長室でニヤリと唇の端を歪めたのだった。

 その日の午前中。ぞくぞくと社員が出社してくるなか、加藤は早速西脇真澄を呼び出していた。
「お呼びですか、社長様」
 社長室に来るなり、華のような微笑を見せる真澄。服装も愛人らしく、加藤好みのスーツ姿である。
「いや、なに。お前に仕事を頼みたいと思ってな」
「まあ、なんでしょうか。社長様からの命令なら、なんでもやらせていただきますわ」
 相変わらず社交的な態度を崩さない真澄だったが、加藤は見逃してはいなかった。美貌の女社員の目つきが一瞬だけ鋭くなったことを。
 やはりこの女は完全に屈伏しているわけではないのだ。確信を得た加藤は、計画どおりに一組の下着を引き出しから取り出して、机の上に置いて見せた。
「これは……」
「我が社の新製品にしようと思ってな。ワシ自らがデザインしたものだ」
 上下お揃いの黒色下着を見つめている真澄に、加藤がそう説明した。
 もちろんそんなことは大嘘で、真澄を再調教するために急きょ用意したものだった。
 少し厚めの下着の生地内部には超小型のローターが埋めこまれており、乳首やクリトリスなどといった敏感部を的確に刺激する。さらに生地には透明な媚薬までふんだんに塗りたくっていた。
「では早速、増田ゆい子や中島春香にモニターさせましょう」
 何かを感じとったのか、それだけ言うと真澄は急いで踵を返そうとした。
「まあ、待て。ワシはお前にモニターしてもらいたいのだ」
「私に……ですか」
 すでに堕ちている奴隷女社員どもに、この仕掛け下着を使ったところで何の意味もない。あくまで真澄に着用させなければならないのだ。
「ですが、私は色々と業務も抱えておりますし……」
「ほう。愛人の分際で、ワシの命令には従えんということか」
 なんやかんや理由をつけて要求をやんわり拒否しようとしている真澄に、ピシャリとキツく加藤が言い放つ。
 いくら西脇真澄が勢力を拡大してきているとはいえ、最高権力者はまだ加藤育郎のままなのだ。強くでてしまえば、相手に断る術はなかった。
「わかりました……」
 やがて真澄は観念したように頷くと、下着を手にとって更衣室へ向かおうとした。しかし、すぐにまた加藤から制止の声を発せられてしまう。
「どこへ行くつもりだ。着替えるのなら、ここでも構わないだろう」
 ニヤリと笑う加藤。その目はまるで真澄の考えを全て見透かしているかのようだった。
 先ほどと同じく真澄は「わかりました」と答え、社長室でブラウスのボタンをひとつずつ外し始める。
 すぐにブラジャーからこぼれおちそうな豊乳が姿を現し、それを見た加藤育郎の顔がより淫猥に歪んだ。
「相変わらずいい体をしているな」
 愛人という立場上、無視をするわけにもいかず真澄は一応のお礼を口にする。
 やがてブラジャーとショーツも社長室の床に落ち、そのゴージャスなボディがお披露目された。
 胸もヒップもツンと上を向いていて、こうして見ているだけで、すぐに自らの手で触れたくなってしまうような魔力を放っている。まさしく男を喜ばせるためだけに生まれてきたような身体である。
 加藤に促されるまま、一抹の不安を感じながらも真澄はゆっくりとモニターする下着を、まずはショーツから身に着けていく。
 何か仕掛けでもしてあると思っていたのだが、体感した様子は普通の下着である。
 自分の考えすぎだったのか。真澄は軽く首を捻りながらも、続いてブラジャーも身に着けた。
「予想通り、よく似合っておるわ」
 勘の鋭い西脇真澄に意図を悟られることだけを危惧していた加藤だったが、目の前にいる女は自分が罠にかかったことにまるで気づいていないようだった。
 若干腑に落ちない様子を見せてはいるが、下着の仕掛けを発見できず、そのまま衣服をまとっていく。
 やがて元のスーツ姿に戻った真澄が、いつもどおりの気丈な視線を加藤に向けてきた。媚薬の効果があらわれるまでは数分程度かかる。それまでは何の違和感も感じることはないだろう。
「用件はこれだけでしょうか」
「ああ、そうだ。あとはそれを着たまま一日過ごしてくれればいい」
 頷いた真澄がツカツカと靴音を響かせて、退出するために入口へと向かっていく。
 エロさ満点の後姿がこれから味わうであろう恥辱を想像しただけで、加藤の愚息はどうしようもなく勃起してしまうのだった。

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